愛媛大学沿岸環境科学研究センター 化学汚染・毒性解析部門:環境毒性学(岩田)研究室
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研究課題名: 多元的オミックス解析による化学物質-細胞内受容体シグナル伝達撹乱の種差の解明
キーワード: トキシコロジー、内分泌かく乱物質
研究代表者: 岩田 久人(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター・教授)
研究分担者: 野見山 桂(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター・准教授)
阿草 哲郎(熊本県立大学・環境共生学部・准教授)
田辺 信介(愛媛大学・沿岸環境科学研究センター・特別栄誉教授)
中田 晴彦(熊本大学・大学院先端科学研究部・准教授)
久保田 彰(帯広畜産大学畜産学部・教授)
国末 達也(愛媛大学沿岸環境科学研究センター・教授)
研究期間: 平成26年度-平成30年度

研究の背景・目的

 化学物質に対する感受性・反応には大きな種差が存在する。しかしながら今日の科学では、特定の実験モデル動物(マウスなど)の感受性や応答の差を個々の生物種に外挿する際には、科学的根拠のない不確実性係数を利用せざるを得ない状況である。したがって、多様な生物種のリスクを評価するには、先ずは生物種自身の反応を測定する必要がある。細胞内受容体は体内の化学的信号を生物的信号に変換するメディエーターであり、このシグナル伝達系の種差が化学物質に対する感受性差や応答の多様性を説明する一要因として考えられている。
 一方、投与実験・資料入手の困難さ故に、実験モデル動物以外の生物の反応を測定するのは用意ではない。その結果、化学物質の生体毒物性試験の必要性は激増しているが、大半の化学物質の評価は未試験のままとなっている。実験モデル動物を対象とする毒性学から野生・伴侶動物種を対象とする環境毒性学へのトランスレーショナルサイエンスが欠如しているのである。細胞内受容体の多様性に関する知見はマウスを対象とした実験で得られた場合が大半であり、多能性に関して魚類や鳥類を含む多様など生物種に一般化できるほどの知見は得られていない。加えて、環境(野生・伴侶)動物種の細胞内受容体シグナル伝達系の全体像を解析できるツールは現在なく、化学物質による細胞内受容体を介した影響の多様性を検証する障壁となっている。
 そこで本研究では、多様な生物の細胞内受容体を介したシグナル伝達系を対象に、化学物質による系の撹乱を「網羅的」に解析できる基盤を構築したい。更にそれを利用して、生理作用・恒常性維持機能への影響を評価すると共に、化学物質による系撹乱の種差の原因となる感受性規程因子を決定することが目的である。

研究の方法

  本研究では、魚類・鳥類・哺乳類を含む実験モデル動物や環境(野生・伴侶)動物を対象に、化学物質による細胞内受容体シグナル伝達系の撹乱に焦点を絞って研究する。科学物質曝露によって惹起される細胞内受容体を介した「多元的オーム」の変化を網羅的に測定し、種差を規定する原因をゲノム・遺伝子・タンパク質レベルで特手するため、以下の5つのサブテーマ(A〜E)に取り組みたい。
A)環境(野生・伴侶)動物個体群に蓄積した化学物質のエクスポゾーム解析
B)エクスポゾームと細胞内受容体の相互作用の網羅的解析
C)実験モデル動物の多元的オミックス解析とパスウェイ解析
D)環境(野生・伴侶)動物種の多元的オミックス解析とパスウェイ解析
E)細胞内受容体シグナル伝達系の感受性規程因子の探索

期待される成果と意義

   多元的オミックス解析を実施することにより、化学物質曝露に対する影響のシステム的理解が進み、バイオマーカーを多様な生物種で同定することが可能になる。また、環境動物とモデル動物利用の有効性と制約(不確実性係数)が明確になり、そのせいかは生体影響試験を標準化・高度化するためのモデルケースとなるであろう。さらに本研究の結果は、「化学物質の審査および製造等の規制に関する法律」でも求められている。監視化学物質を特定するための科学的根拠を与えることにも寄与できる。